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コンサルティングとコーチングは紙一重(G.M.ワインバーグ「コンサルタントの秘密」)

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秘密は書いてない

 

「コンサルタントの秘密」というタイトルがついていますが、僕が読む限りどこにも秘密は書いてありません。

 

というか、この本が書かれた1990年と比べると、今はコンサルタントという職業は大分一般的なものになったということなのかもしれません。

何のコンサルティングかによって仕事の内容は変わりますが、「クライアントの課題を解決する/アドバイスする」という大きな括りでいえば、ここで書かれていることはすべてのコンサルティングに当てはまると思います。

 

特に経営コンサルティングに関しては、「コンサルタントの仕事術」とか「論理的思考」とか、コンサルティング業界の中で何が行われているのかを解説した本は本屋に行けば平積みで売られています。実際にやってみないとわからないことは多くあるのは確かですが、コンサルタントがどのようなアプローチでどのような仕事をしているのかは割と良く知られているのではないでしょうか。

 

 

経営コンサルタントはプロ経営者では無い

 

私自身はこういう誤解を受けたことはありませんが、経営コンサルタントは必ずしも経営のプロではありません。確かに、業界の中には経営のプロも居ます。(コンサルタントから実業家に転身して立派な会社を作った人も多数)また、普通の人よりも経営的な視点や知識を持っています。しかし、だからと言って「経営コンサルタントである=経営のプロとして事業を運営できる」ということにはなりません。

 

そうではなくて、この仕事はクライアントの課題を解決することで付加価値をつける専門職であり、どちらかというと職人に近いんだと思います。

家を建てるという仕事が発生すると、大工や内装、外壁、水道、電気工事などの職人さんが集められて、それぞれが自分の持ち場の仕事をこなして納期内で家を建てていきますが、コンサルティングという仕事はこんな感じです。(立場によって大工、現場監督、棟梁のような差はありますが)

 

職人なので、様々な「技」があって、使える技の多様性によって職人としての価値が決まってきます。この本は、コンサルタントとして仕事をしてきた著者が「コンサルタントの仕事とは一体どのように行われるのか?」を自己内省的に語る中で、「技」のTipsを散りばめられた構成になっています。

 

20年前のビジネス本であれば、普通はどこか古臭さが漂うものだと思いますが、不思議とこの本にはそうした匂いがまったくありません。

と同時に、なんというか、古典を読んだ時の感覚というか、なんともいえない味わいがあります。教訓的なんだけど説教くさく無い。素直にコンサルタントという職人としての自分の技はどうなっているのか考えさせられる本でした。

 

 

クライアントと共創する仕事

 

この本の中にも折に触れて書いてあるし、私も常々思うのですが、コンサルティングという仕事はコンサルタントとクライアントの共創関係がないと成立しません

 

コンサルタントの仕事はある時はスパークリングパートナーであり、ある時は応援団であり、ある時は医者であったりするわけですが、いずれの場合も助けようとしているボクサーであり、選手であり、患者であるクライアントの「勝ちたい」「生きたい」という気持ちがないと成立しない仕事です。

 

当人が何を望むのか、どうありたいと思うのか、それを一緒に紡ぎ出しながら、望む状態に一緒に向かっていく。クライアントが組み込まれているシステムの構造を捉え、それを変革するレバレッジポイントを探り、施策を共に考え、実行を支援していく。青臭く言えば、クライアント自身も思いもよらなかったような高みに一緒に上っていく。

 

 コーチングとコンサルティングって紙一重だ、と良く思います。この本の著者ワインバーグ氏は「90%の病気は実は医者の手を借りなくても自然に治る」と言い、「システムを外部から治しすぎると、システム内部にもともと備わった自己治癒力が喪失される」と言います。

20年前のコンサルティング業界ってもっと啓蒙的だったんじゃないかと思いますが、そういう時代の発言としてはとても興味深い。MBAで習う戦略フレームワークがまだまだ一般的でなく、PPM描くだけで示唆が出てしまったような時代。そういう時代にあって、コーチング的な発言をする著者はかなりの変わり者なのではないかと思います。

 

今の時代のコンサルティング業界に身をおく立場としては、ワインバーグの主張は至極まっとうなものに聞こえますが、啓蒙主義的・教条主義的な時代にあって、コンサルタントが提供する価値とは課題の解を大々的に出すことでは無く、クライアントが自ら変わる本当にちょっとしたきっかけを提供することに過ぎないと主張することは、確かに「コンサルティングの秘密」の暴露だったのかもしれません。