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株で企業分析リテラシーを鍛える(山口揚平「企業分析力養成講座」)

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なぜ個別株を買うのか

 

株を買うという行為、人によって捉えかたが変わりますね。投資なのか、投機なのか、ただのギャンブルなのか。捉えかたによって買い方も変わります。株の値動きは合理的に説明できない要因に大きく影響を受けるので、どういう買い方をしても損するときは損するし、得するときは得します。

 

こういう状況なので、「マーケットで入手可能なすべての情報は株価に織り込まれているので、個別株の値上がりを狙って売買することは無意味」と考え、ETFを買うのが最も賢いとする人も結構います。

 

投資が目的で、大きなリターンを狙うことを考えないのであればETFだけを買うのもありだと思いますが、それでも僕は個別株を見て買った方が良いと思っています。

 

というのも、株の売買って商売のリテラシーを高める上でかなり大きな教育的効果があるんですよね。できれば中学・高校くらいから株の教育をした方が良いと思うくらい、株の売買は学びが深い。経営の良し悪しとは何なのか。経営数値を分析してそれを見抜く能力とは何なのか。企業分析のリテラシーの基本はすべて株を買うという行為の中で学ぶことができます。

 

 

企業を見る目

 

自分で個別株を選ぶには企業を見る確かな目が必要です。株価のベースとなるのは、その企業の先々の収益力です。その企業がどのようなメカニズムで収益を上げているのか?将来、そのメカニズムは同様の収益を上げる、もしくはより大きな収益をあげるか?ということに対して自分なりの見立てを立てることが、株を買うかどうかを決める第一歩になります。

 

いまこの瞬間の現象(=収益)でなく、それを生み出しているメカニズムに目を向ける。これって言われてみれば当たり前ですが、なかなか出来る人が少ないのも事実です。例えば就職活動でも企業分析をしますが、大半の人はその瞬間景気が良い企業に就職したがりますね。その会社がどのようなメカニズムで収益を上げていて、それは自分が働く今後数年~数十年の間も変わらないのか、ということを考える人は少数派です。

 

 3Cだの4Pだの5 forceだの、いろいろとフレームワークがあるように、企業を見る観点は複眼的である必要があります。ただ、いろいろな観点から企業と企業を取り巻く環境を分析したとして、結局のところ答えなければならない問いは「この企業の収益はどのようなメカニズムによってもたらされているのか?」であり、「そのメカニズムは将来どのような変化にさらされるのか?」です。その洞察と財務諸表の読み解きの間を行ったりきたりする、というのが企業を見るということです。

 

 

企業分析のリテラシーを学ぶ

 

財務諸表を読み解く技術を身につける、そしてそこから企業価値を計算する方法を習得するのであれば、実は自習でなんとかなってしまいます

 

グロービスから出ている「MBAアカウンティング」と日経BPの「MBAバリュエーション」の2冊をそれぞれ3回くらいペンをもって読み込めば財務諸表は読めるようになるし、自力で企業価値を算出し、理論株価をはじき出すこともできるようになります。

これをベースに株投資という観点を追加すれば良いわけですが、僕がいろいろ読んだ中では「バリュー株投資は勝者のゲーム」という本1冊で十分な気がします。投資はいろいろとスタンスがあるので、バリュー投資が必ずしも唯一の投資方法ではありませんが、企業分析を投資に生かすということを考えるならこのスタンスがしっくり来ます。

 

企業分析の基本はこれで良いとして、後は応用なんですが、私が知る限りあまり良い本がないんですよね。MBAのケーススタディにはいくつか良い素材があるんだと思いますが、手ごろなもので出版されているものが無い。

 

この場合、応用というのはより高度な分析指標の解析の仕方を学ぶとか、バリュエーションを厳密に行う方法を学ぶとか、そういうことではありません。

ここで言う応用とは、基本で身に着けた必要最低限の分析方法を切れ味の良い万能ナイフのように使いこなして、多くの企業やビジネスを分析する場数を踏むということです。

 

この本「企業分析力養成講座」はそういう意味で面白い本。企業分析の9つの視点を定義して、それぞれ1社づつケーススタディとして企業分析の実例を提示しています。各ケースで学ぶべきポイントが明確です。個人的には、語学スクールの売上が財務諸表上どう処理されるか(GABAとNOVAの比較)、やBSの右側に関する話(株主構成や資本政策の考え方)で学びがありました。

 

こういう本がもうちょっと世の中にあると、日本のビジネスマンのリテラシーも上がるのにな、と思います。しかし、逆にこういう本が極めて少ないことを見ると、応用力を鍛えるためには、本というメディアでは無い学習機会を提供するほうが良いのかもしれません。それこそ、ゲーミフィケーションのような方法を使って基礎力を使いこなし、洞察と深い学びに導くような方法があるのかもしれないと思います。

 

学習理論と最新のテクノロジーを使って、効率よく企業分析リテラシーを高めるような教育サービスを提供する。そんなことができないか、最近よく考えます。