知恵の樹

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「猿真似」で良いじゃないですか(井上達彦「模倣の経営学」)

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「猿真似」と「着想」

 

人のアイデアをそのままパクって成功すると「猿真似」と言われます。しかし、人のアイデアに捻りを入れて成功すると「着想がすばらしい」と言われます。前者は妬まれるけど、後者は賞賛される。

 

この本で書かれていることは、「猿真似」も「着想」も大した差は無い、ということです。

 

最近の言葉でいうと、TTPというのでしょうか。(T:徹底 T:的に P:パクる)

スターバックスはイタリアのエスプレッソバーを最初は忠実に「パクリ」ました。そこからスタートして、市場で受け入れられるもの、企業のビジョンとして表現したいものを加えながら進化させていった。始まりは「猿真似」だったかもしれないが、スターバックスの成功を「猿真似」と言って妬む人はほとんど居ません。

 

これだけ多くの人が居る世の中で完全にオリジナルなものなどあり得ない。何かを下敷きにして、そこに様々な変化を加えていく中で十分に価値のあるオリジナリティは出てくる。そういう考え方をした方が確かに世の中面白いと思います。

 

 

コンサルタントに自社成功のメカニズムを解明されるようでは駄目

 

ただ、経営をする上では競合からの模倣は脅威。

 

せっかく研究開発費をかけて作った商品やビジネスも、競合に仕組みを解明されて真似されたらひとたまりもありません。特に、昨今は経営コンサルタントがアンテナを張って世の中を見ているので、新しい成功事例はすぐさまその仕組みを丸裸にされ競合に伝えられます

 

逆に言えば、コンサルタントに解明されるような判りやすい仕組みが成功要因なのであれば、それは継続的な成功を約束するものにはならない可能性が高い。

 

確か石井淳蔵さんだったと思いますが、「会社の強みは、それがなんだか良くわからないものであればあるほど強い」と言っていました。彼はブランド論の観点から述べていましたが、そうした「なんだか良くわからない強み」はサービスの組み方や組織のあり方など他の部分でもあり得ることです。

 

本書の中で、公文の事例が出てきます。

 

公文のビジネスは仕組みをコピーすることが出来るようで出来ません。他社が参入して同じ教材を同じ街の教室の仕組みで展開してもうまくいかない。それは、公文の強みが教室を運営する教師間のネットワークとコミュニケーションにあるからです。

 

ノウハウがネットワークの間に溜まっており、しかも公文の教材が共通言語として使われているので、そのままコピー出来ないのです。(例えば、「シート番号D-106で子供が躓いた」と言えば、たちどころに「3桁割る2桁の計算をメモなしでするのが苦手」ということが理解され、それに対する対策がたちどころに他の教師から提案される、という具合)

 

ビジネスモデルは鮮やかであればあるほど目を引きますが、それが永続するかどうかはまた別の問題です。

 

会社を興してビジネスを立ち上げるのであれば、コンサルタントが来たらモデルとして解明されてしまうものを作らないということを意識したほうが良いように思います。

 

「営業網が当社の5倍ある」「サービス担当者のクオリティ意識が高く、顧客評価では当社より10ポイント高い」「顧客のブランドロイヤリティが高く、毎年ランキングトップ10に入る」 コンサルタントは、いろいろな言い方である企業の強さの要因を説明します。しかし、営業の強さやサービスクオリティなどに関しては、上に書いたような言葉を聞いて明日からすぐに真似をすることは出来ません。こういうところに強みがある場合、核心部分でのメカニズムは言葉では説明できないのです。

 

そこを命を懸けて強化する。永続的な競争優位はそういう企業の真剣な営みから生まれるのだと思います。鮮やかなビジネスプランを考える一方で、どうしても真似できないドロドロしたものを作り上げる。それがポイントのように思います。