知恵の樹

オーガニックな成長をあなたに

人と組織の関係を考える(南場智子「不格好経営」)

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どこが「不格好」なのか?

 

なんとまあ人間臭い本でしょうか。

 

前書きで南場さん自ら書いていましたが、本当に人の名前で溢れている本です。創業の話に始まり、会社が拡大し現在に至るまでに関わった人・人・人。さらには家族の話まで。人の体臭が漂ってくる位、とにかく人の話で埋め尽くされた本でした。

 

企業の業績は数字として残りますが、当然その数字の後ろには多くの人のひらめきと努力、成功と失敗があります。そんな人の物語をひとつひとつ丁寧にすくい上げ感謝を伝える南場さんの思いを感じます。

 

「不格好経営」と言っていますが、人の活躍と組織の高揚感にフォーカスした経営のことを「不格好」というのなら、こんなに素敵な「不格好」は無いですね。

 

 

「任せる」のではなく「頼る」のではないか?

 

南場さんはDeNAの競争力の源泉は人にあると言っています。

 

環境変化の激しい業界にあっては、戦略の賞味期限なんて下手したら1年もありません。時間をかけて美しい戦略ストーリーを考えるよりも、変化しつつある環境を適切に捉え即座に行動を組みかえられる人材の育成に力をかけることこそが、遠回りのように見えて実は正しい「戦略」ということなんだと思います。

 

そして、南場さんは人を育てる方法として「単純な話で恐縮だが、任せる、という一言に尽きる」と言っています。

 

本を読んだ印象として、僕はこの表現は正しくないのではないか?と思っています。南場さんは「任せている」のではなくて「頼っている」のではないかと。

 

昔、内田樹さんが「天職の発見がブームになっているが、いくら自分の中を掘り返しても天職なんていうものは見つからない。なぜなら、天職は言葉の通り天から落ちてくる、すなわち自分の外から「この仕事はあなたにやってもらわなくては困るのだ」とやってくるものだからだ」というようなことを言っていました。

 

人は人に頼られた時に最大の動機付けを得ます。「あなたにやってほしいのだ」「あなたが居ないと困るのだ」という他人からの本気の要望に、私たちは必死で応えようとします。

 

どんなに有能な経営者も完ぺきではあり得ません。自分は完ぺきでは無いのだという姿勢をさらけ出し、本気で部下や外部に「頼る」。経営者が弱みを持っていてこそ組織は強くなる。そういうことなんではないかと思います。

 

 

未来の仕事の仕方

 

南場さんも本の後半で書いていますが、近い将来仕事の進め方は大きく変わると思います。明確な目標をもったプロジェクト単位で仕事が切り分けられ、人材が流動的に集まったり離散したりしながら各単位で結果を出していく。

 

イメージとしてはドラクエとかファイナルファンタジーの「パーティー」に近い感じでしょうか。倒すべき敵が明確(=目的が明確)で、敵を倒すために戦士や魔法使いや僧侶など、異なる能力を持つパーティー(=人材)が集まる。

 

一人では勝てない敵に対しても、パーティーがそれぞれの力を発揮するからこそ勝つことが出来て、だからこそ全員が新しい経験を経てレベルが上がっていく。良いパーティーに居る人はどんどん新しい経験を蓄積し、そうで無い人はそれなりの経験しか積めない。

 

そこではどういうパーティーで働くかということが成長の重要な要素になってきます。

 

こういう時代にまず重要になってくることは、まず「頼られる能力を身につける」ということ。戦士なのか魔法使いなのか、頼られる能力の方向性は色々あります。仕事の文脈で言えば、開発、営業、広告宣伝、財務・経理、法務・知財、、、と言うことになるでしょうか。自分が得意とする領域のスキルを磨き頼られる存在になることが重要。

 

と同時に、同じくらい重要なことは「人を頼る能力を身につける」ということだと思います。人に頼られることによってチームの中に強い動機付けが生まれる。頼り・頼られる連鎖がチームの絆を強くするのだと思います。それは、「任せる」という分業とは意味合いが違います。

 

人に頼ることが出来ない人は、どんなに個人としてパフォーマンスが良かったとしても、チームへの貢献度合いが制限されます。人に頼らない人の集団は良いチームにはならない。

 

個人と組織の関係はこの先どんどん変化をしていく。そういう時代の作法を人はどこで身につけるのか?10代後半~30代前半までの教育・仕事をどこで積むか。その10年間で様々な人とチームを組んで課題をこなす経験を積み重ねていく。それが決定的に重要な世の中になっているように感じます。